小林公夫の「愛(め)でたいモノたち」

作家で法学者である、ハカセ小林公夫が好きな服や、小物、本、好きなお店、料理など様々な好きなモノについて語るページです。

「昭和の謎」第2回 名著多湖輝「頭の体操」 1巻の謎について 細菌は結婚しませんよ ビンの大きさは2000ℓ?

f:id:kobayashi-kimio:20221028143815j:image

今から54年前に刊行された多湖輝著「頭の体操」は、半世紀を経た今でもなお輝きを放ち、思考力養成の原点ともいえる内容である。ただ、その中にいくつか非現実的な理論上、成立しえない内容の出題がある。多湖輝氏自身も、第1巻発刊後、読者からの封書による質問攻めに苦慮された、と2巻のはしがきに記されている。第1巻に収められた今回の問題が、その対象となったか否かは不明であるが、描かれているイラストに違和感を感じた1問である。そこで問題である。

 

問題

上記の問題文と、絵に目を通し違和感を感じるところを指摘しなさい。

(制限時間10分)

解説

1.

この細菌を仮に大腸菌のような細菌と考えて、この細菌の長径を2 マイクロメートル→1マイクロメートル = 1000分の1ミリ、短径を1 マイクロメートル、高さを1 マイクロメートルの直方体と仮定するとその体積は、2立方マイクロメートルとなる。そしてこの細菌が1個の状態から、1分間に1回分裂すると、1時間(60分)後にどのくらいの体積になっているかというと、2立方マイクロメートルに2の60乗をかけた膨大な体積になっているのだ。計算を少し簡略化しておおよその体積を算出すると、何と約2000ℓになった。

 

 

つまり1時間後に、細菌の体積の総和は約2000ℓ以上となってしまうのだ。

 

 すなわち、もし細菌が1時間で一杯になるのであれば、このページに描かれている瓶は、2000ℓの瓶ということになる。ただ、筆者、イラストレーター、出版社の編集担当者は、そのようには考えていない。おそらく1 L程度の瓶を想定してこの絵を描いているのだろう。筆者も含め文系の出身が多いだろうからこれは致し方ないことだ。

 

2.

もう1つこのイラストにはとてつもない違和感がある。それは細菌の分裂という概念を取り違えていると思われるからだ。細菌は我々ヒトのように有性生殖をせず、無性生殖をする。つまり単一の生物が、二分裂し増えていくのである。中には多分裂するケースもあるが、本問では1分間で2個に分裂するとの記述があるので、2分裂を示していると考えられる。分裂とは、単一の生物から同じ遺伝子のものが倍々に増加することを意味する。従って、イラストのようにオスとメスの細菌が有性生殖(受精)をして細菌の赤ちゃんが誕生するというようなケースは生じない。夢のあるイラストだが、科学的に疑問が生じるのは否めない。何故このようなことになったのか、当時の生物の教科書には無性生殖について詳しく触れられていなかった可能性がある。

いずれにせよ、正しいい解釈で、イラストを描くなら、1匹の細菌から同じ体と顔をした細菌が増えていくような絵が描かれるべきであった。まあ、このイラストでは夢が無いけれどね。