小林公夫の「愛(め)でたいモノたち」

作家で法学者である、ハカセ小林公夫が好きな服や、小物、本、好きなお店、料理など様々な好きなモノについて語るページです。

修復腎移植の名手、万波誠医師の思い出。移植医療に尽力した人生

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一橋大学で博士号を取り、医事法の研究をしていた頃、1つの興味深いテーマに遭遇した。病気腎移植という移植医療である。病気の腎臓という名称は何とも人聞きが悪いので、この名称は後に、修復腎移植という名で呼ばれるようになった。当時、グラールマン、エーザー、ヘルトらの影響を受け実験的治療行為の研究に従事していた私は、この移植術が正当なのか否かを探るため、移植術を施行していた宇和島徳洲会の万波誠医師に話を聞きたいと考えた。移植術の正当化が可能かどうかをまず、医療の技術規則の観点から、そして患者の自己決定権の観点から検証したいと考えたからだ。電話で連絡すると、思いのほか一つ返事で時間を取って下さった。すぐさま、愛媛の宇和島まで飛んだ。その時、デジカメで私が撮影したのがこちらの写真である。明確には覚えてはいないが、「わしは写真が苦手じゃけん」というような方言を話されていたのを記憶している。「先生、笑いましょうよ」と声をかけると、少年のような表情をされて、笑われた。その場には弟さんの他、お弟子さんの外科医などがおられたが、夕方から開始し2時間ほど密度の高い取材をさせていただいた。帰り際、車に乗るため外に出ると、雨が強く降っていた。私が車に乗り込み後ろを振り向くと、なんと、万波先生が1人、雨の中、手を振りながら追いかけてきた。先日、先生がお亡くなりになられたことを報道で知った。最後にひと目お会いしたかったが、それはかなわなかった。今は、実験的治療行為の研究を続けることが恩返しなのだと思っている。